ジャパンプロデューサーインタビュー

Vol.239 [首長] 髙島崚輔 兵庫県芦屋市長 「『好き』を探究する学びの実現を公立で」

〝「好き」を探究する学びの実現を公立で〟
芦屋市長 髙島崚輔
JAPAN PRODUCER INTERVIEW vol.239

兵庫県の南東に位置し、
生活条件に恵まれた住宅都市として発展してきた芦屋市。
歴代最年少で市長に就任された髙島市長に、
「世界一住み続けたい国際文化住宅都市・芦屋」の実現に向けた取り組み
に関してお話をお聞きしました!

< 社会を変える、市長という仕事 >

ー市長を志したきっかけを教えてください。

髙島市長:

私が小学校6年生の時、地元の箕面市の市長が若い方に変わりました。その結果として子育て環境や教育がすごく良くなり、市長が変わるとこんなにも市は変わるのかと思ったことを覚えています。市長は小学校の運動会に来られるなど、とても身近な存在でした。高校生の時にはその市長とお話する機会があり、お話を通じて「市長の仕事はまさに社会を変えるんだな」と実感しました。その重要性と影響力に魅力を感じたことが、市長の仕事を志した原体験です。

私は26歳で市長に就任しましたが、大学時代は市長になることを特に意識していたわけではなく、エネルギー問題への関心から環境工学を専攻していました。東日本大震災の後に何度か東北に足を運び、これからの日本社会をより良くするにはエネルギー政策が重要だと強く感じたことがきっかけです。現場を見たいと休学して世界のまちを回る中で、エネルギー政策も含めた様々な政策立案に携わりたいという思いが強くなり、2019年には芦屋市役所でインターンシップを行いました。国の省庁でもインターンをしましたが、やはり地方自治体は市民に近い。実施した政策の効果をわかりやすく実感できましたし、それに伴ってやりがいや面白さも多く感じたことから、最終的に市役所で働くことを決意しました。

<世界一の教育を提供できるように>

ー髙島市長の考える30年後の理想の芦屋市とは?

髙島市長:

世界で一番住み続けたいまち。それが芦屋市の理想の姿です。そのためには、何よりも人への投資が重要です。だからこそ「最高の学びができる芦屋」を掲げて、公立学校の教育改革に取り組んでいます。特に幼児期から小中学校までの教育に重点を置き、子どもたちが必要な知識を身につけるだけでなく、自ら考え、興味のあることを探究する力を育てることを重視しています。

昨今の平均寿命は年々伸びています。平均寿命が80歳を上回っていることを考えれば、今の子どもたちはおそらく22世紀まで生きていることでしょう。22世紀を生きる子どもたちのために、新しい考えや技術を自分たちで創造したり、自分の興味あることを探究したりできる力が育つ環境をつくりたい。いま、私立ではいろんな面白い学校や新しい試みをしている学校がどんどん出てきていますが、やはり社会に対して一番大きな影響を与え、変化のための重要な役割を担っているものは公立学校です。公立の教育を変えることで、社会を変えていきたいんです。

芦屋市は工場や大企業がほとんどない、市民の力で成り立っている市です。「ちょうどの学び」というスローガンを掲げ、公立学校で一人一人に合った学びを実現することを目標にしています。一人ひとりの個性や特性、理解度、そして何より自身の興味関心に応じた学びができる環境を、できるだけ早く創り上げたいです。

ー「子どもたちの探究力を育てるべき」という考えに至ったきっかけを教えてください。

髙島市長:

大学時代に、教育関連のNPO法人の理事長を務めていました。その活動の中で全国の公立の学校を回った経験が大きなきっかけです。多くの中学生や高校生は、真面目に勉強を頑張っている。でも、学ぶ意義への納得感やモチベーションはさほどでもない、というケースが多かったんです。例えば因数分解って何のために勉強するんだろう、と疑問に思ったことがある方、多いと思います。実社会との繋がりや、自分の将来に役立つのかを理解できていないまま勉強している。でも、試験には出題されるので「とりあえず暗記する」。この考え方が当たり前になると学びの意欲を向上させることは難しくなりますよね。この現状を改善するために私は、一人ひとりが自分自身の興味関心のある分野と勉強する内容がどのように関係しているかを理解した上で学習に取り組めるようにしたいと考えています。

例えばサッカーが好きな生徒がいるとします。サッカーはスポーツですから、一見すると机に向かう勉強は関係ないと思いますよね。でも、一流のサッカーチームは数学的な統計分析を用いて勝利の方程式を導きます。筋肉の疲労回復にはタンパク質の合成が大いに関係しています。サッカーの戦術を学ぶために一流の監督の著書を読むときにも、国語力、読解力があれば格段に理解しやすくなるはずです。目の前の科目がどのように自分の興味関心につながるのか理解できていれば学びへのモチベーションも上がると考えています。

実はハーバード大学では、初回の授業に最も力を入れる教授が多い。どれほどその分野が面白いか、どのようにして私たちが生きる社会と関わっているかを熱弁するんです。ハーバードには必修がほとんどありません。だからその分野がいかに面白いかを初回でアピールできないと、学生が興味関心をなくし、その授業を受講しなくなってしまうんです。初回にどのくらい多くの学生を惹きつけられるかが腕の見せどころですね。芦屋市でも子どもたち一人ひとりの興味や関心を学びに結びつけることができれば、一人ひとりの学びへの意欲も上がってくと確信しています。

< 世界へ羽ばたき、帰ってこられるように >

ー芦屋市が抱える課題とその解決にむけた取り組みについて教えてください。

髙島市長:

いちばんの課題は少子高齢化です。近隣地域で高齢化率はいちばん高く、出生率はいちばん低い。この中長期的な課題を解決するのは簡単ではありません。医療費助成などをはじめ、もちろん経済的な支援も行っていきますが、私は教育の質向上が鍵だと考えています。

誤解を恐れずにいうと、この時代に生まれた子どもたち全員に一生芦屋で暮らしてもらうというのは無理だと思っています。むしろ優れた教育環境を提供することで、芦屋市にとどまらず広い世界に羽ばたき、「芦屋出身の人、頑張っているね!」と言われるほどの活躍をしてもらいたい。でも、成長した彼らが子育てを考え始めるときに、いちばんに思い出される街でありたい。子育てしたいと思える、教育を受けさせたいと思える芦屋市にしていきたいです。高齢化の課題に対しても子育て層が芦屋に帰ってきてくれることはプラスに働きます。教育の質へのこだわりを持って市政を進めていきます。

具体的な取り組みとしては、探究学習やSTEAM教育などを実施して生徒一人一人の興味関心を学びにつなげていきたい。その土台づくりとしては、先生の働き方改革と子どもたちの心のケアが重要です。先生は忙しすぎます。先生でなくてもできる業務は他の人に任せて、部活動も地域移行することで、先生方が授業研究に集中できる時間を確保し、教育の質を上げられる環境をつくっていきたいです。また、小中学生の不登校が増えていることを踏まえ、子どもたちの心のケアを緊急の課題として優先的に行っていきます。小中学校全校に心のケアを専門に担当する人を配置するなど、子どもたちがどんな状況でも学び続けられる環境づくりに力を入れていきたいです。短期的には先生の働き方改革と子どもの心のサポートを行い、中長期的には公教育の質を上げることで、「最高の学びができる芦屋」を創り上げます。

< NPO法人としての活動を通して >

ー政策に反映されている市長の経験とは?

髙島市長:

居心地の良い環境を出たことです。アメリカの大学に進学したこともそうですし、3年間休学して世界を回ったこともそうです。NPO法人の理事長として教育プログラムをつくったり、高校のカリキュラムを先生や教育委員会の方々と一緒に作成したりした経験も今に活きていますね。

振り返ると、自分がマイノリティになる環境での経験は、私の考え方に大きな影響を与えたと思います。留学中に言語の壁を感じ、「どうすればこの世界で生き残っていけるのか」ともがいた経験も重要ですが、うまくいかないときに周りに頼った経験、助けてもらえた経験があったことはとても大切でした。

市役所は、市民にいちばん身近な「公」として、セーフティーネットの役割も担っています。様々な立場の市民の方々を私たちはどのようにサポートできるのか、自分は何ができるのか身をもって考えさせられたという点でも、すごく大きな経験でした。

< 若者へのメッセージ >

ー若者を代表して活躍されている髙島市長から、ジャパンプロデューサーとして、政策立案やまちづくりに取り組む若者に向けて一言お願いします。

髙島市長:

「やりたいことをやる!」ということに尽きます。残念ながらこの先30年後、社会がどうなっているかは誰にも分かりません。30年前の人はAIの台頭をここまでだとは予想できなかったでしょうし、私が生まれた頃はスマホもありませんでした。たった数十年でこれだけ変化する環境だからこそ、自分の好きなことを追究して自分の意思で行動し続けていただきたいんです。好きなことをやり続ければ、その結果がどうなったとしても自分自身で納得できると思うからです。

でも、ただ惰性でやり続けるのは意味がありません。「ちゃんとやる」ことが重要です。「自分の好きなことをしっかりとやり遂げた経験」がある人は、輝いて見えます。たとえ言葉が伝わらない海外の方にも、「好きを探究した」という芯があれば、興味を持ってもらえるはず。言語以外の個の魅力にも繋がります。ぜひ好きなことをやり通してください!

(インタビュー:2023-12-21)

プロフィール

■生年月日 
平成9年2月4日
■学歴
灘中学校卒業
灘高等学校卒業
ハーバード大学卒業(環境工学専攻、環境科学・公共政策副専攻)
■職歴
平成28年6月 NPO法人グローバルな学びのコミュニティ・留学フェローシップ理事長
令和元年10月 芦屋市役所企画部政策推進課にてインターンシップ
令和 4年5月 ハーバード大学卒業
■略歴
令和 5年5月 芦屋市長 就任

※プロフィールはインタビュー時のものです。
髙島市長とのインタビューの様子
髙島市長とのインタビューの様子
2023年12月21日 芦屋市役所にて
(1枚目 中央右:髙島市長 その他:ドットジェイピースタッフ)
(2枚目 左:髙島市長 右:ドットジェイピースタッフ)

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