ジャパンプロデューサーインタビュー

Vol.205 [首長] 表原 立磨 徳島県阿南市長 「市民と共に、次の担い手が生まれてくる豊かな田畑を耕す」

〝市民と共に、次の担い手が生まれてくる豊かな田畑を耕す〟
阿南市長 表原立磨
JAPAN PRODUCER INTERVIEW vol.205

四国最東端に位置し、発光ダイオードの生産地となっていることから
”光のまち”とも言われる阿南市。
そんな阿南市に大きな光を当てようと立ち上がった表原立磨市長にお話をお聞きしました!

< 政治的無関心層から議員、そして市長へ >

ー市長が政治の世界へ入っていったきっかけをお聞かせください。

表原市長:

大学進学を契機に地元徳島を出て飲食業界に入り、15年程都会暮らしをしていました。リーマンショックの影響を受け、地元徳島へ戻ってくることになったのですが、その当時の私に、主体的にまちづくりや政治に関し参画していきたいという思いがあったかと言われるとそうしたことはなく、寧ろ関心が薄いほうでした。

恥ずかしいことなのですが、私は30歳になるまで一度も選挙にすら行っていない、いわゆる無関心層に分類される人間であったと自覚しています。そうした私の価値観が大きく変化したのは、家業が軌道に乗ったころ携わるようになった青年会議所での活動によるものでした。

町おこしのイベント等から徐々に政治的な活動へと関心の輪が大きくなるにつれて、これは、私自身が政治の場に乗り込んで変えるべきを変えるしかないのかと思うようになります。選挙の公開討論会などを主催することも度々ありました。そこで市民の皆さんに関心を持ってもらうといった具合に、間接的に政治に携わることはできます。しかしながら、その先のステップを目指すとなった際には、自らがその主体者にならざるを得ないと感じました。

私は、目の前に立ちはだかる大きな壁を打ち破るべく、まずは市議会議員になることを志したのです。

ーその後、市長になられるに際してはどういった契機があったのでしょうか。

表原市長:

市議として、議決権を有する28人のうちの1人として議会で審議を行う、発言する、問題提起をすることは出来ます。しかし一方で、政治や行政の根幹に潜む問題を抜本的に解消するために変えなければならない要所に対して、一人の議員、ましてや新人が及ぼす影響力に限界を感じるようになりました。

私は、議員活動の中で、義憤ともいえる感情をもつようになりました。一概に誰に対して、ということではなく、議会制民主主義の構造上このまま看過するしか術はないのかという忸怩たる思いがその感情に繋がりました。義憤がある意味で原動力となり、行政のトップに駆け上がる挑戦へと駆り立てたのです。

故郷の未来に対して想いを持っているにも関わらず、選挙に負ける可能性が極めて高いという現実に臆し、ただただ現状を見過ごし、座して死を待つことしかできない自分を後悔したくなかったのです。

< 次の担い手が生まれてくる豊かな田畑を耕す >

ー市長の考える阿南市の理想はどういった姿でしょうか。

表原市長:

私は、阿南市は非常にもったいないまちだと以前から感じていました。阿南にはLEDで世界トップシェアを誇る企業、日亜化学工業があります。阿南人口の7万人に対して8千人以上の就業者数を抱え、税収や消費・投資に多大なる恩恵をもたらしている、いわゆる企業城下町です。しかし、これは一方で依存状態という側面も有しています。

生産年齢人口の社会流出、高齢化、公共施設の老朽化といった現実を直視せず、「日亜があるから大丈夫だよね」という意識は確かに存在していると感じています。磨けば活かせる地域資源が多くあるにも関わらず、こうした強依存にも似たマインドが、成長を阻害する要因になっている側面があると認識しています。

私は、ここにも大きな課題意識があります。
何が言いたいかと言いますと、自分が首長として行政主体のスタイルのみで公共を担うのでは十分ではなく、最終的には、自らがそれぞれの分野のリーダーとして主体的に取り組んでいきたいと思える市民を増やすことで、持続可能なまちを実現させなければならないということです。

色んな分野においてチャレンジできる環境を作っていく中で、30年後、私が後期高齢者に入っているときに、自分の子や孫の世代に、あの時の大人は何をしていたのかと恨みに思われるのか、自分たちの為に成長の種を蒔いてくれたのだなと感謝されるのか、その分岐点がまさしく今だと思っています。

私たち責任世代がいなくなったその後も、各分野において次の担い手が生まれてくるような田畑を耕すことが、私の役割だと思っています。そうして多様な花が咲き、さらに豊かな土壌を形成していく阿南市を理想として市政に臨んでおります。

ー理想の実現に向けた取り組みはどういったものがありますか。

表原市長:

主な取り組みとしては三点あります。

一つ目が出前市長です。
これまで20回程、市政に関心のある組織やグループの方に手を挙げてもらい、そこに市長が自ら乗り込み、胸襟を開いて意見交換をしてきました。堅苦しい議事録を残してしまうと、互いの発言を抑制してしまいかねないので、あえて議事録を取らずざっくばらんな雰囲気で実施しています。市長在任期間は、市民との対話の場というものに関しては、これからも設けていきたいと考えています。

二つ目は、「阿南版事業仕分け」と「阿南未来自分ごと会議」です。
旧民主党政権下において有名になったものを、阿南市版としてアレンジして、徳島県下で初の実施を行いました。目的を、単なる行政のコストカットではなく、市民のまちづくりへの関心を高め、主体性を持った市民を一人でも多く生み出すこととして行っています。
その翌年には更にブラッシュアップして、「阿南未来自分ごと会議」として実施しました。第三者視点として外部の有識者にも協力を仰ぎ、最終的には、市民の皆様が取り上げる5つの事業に対して、自分が仮に行政担当であるのなら、どこに対してメスを入れていくべきなのか、あるいは複数ある事業を集約させていくことなども含めて、市民の意見を行政運営に反映させられるよう取り組んでいます。本事業は、次年度においては更に深化させていきたいと考えています。

三つ目は関係人口についてです。
昨今、全国的に関係人口の増加を図っている自治体が多いですが、ある意味関係人口疲れのような感じにもなっています。コロナ禍でオンラインが活用されるようになり選択肢は増えましたが、実となる、あるいは次の種に繋がる本質的な取り組みは出来ているのかについては課題が残ります。いま取組を進めているふるさと納税制度について、更に次の消費・投資に繋がるような寄付金の有効活用、仕組みづくりを行っていきたいと考えています。

< 良い失敗を重ねて >

ーこれからまちづくりや地域活性に取り組む若者にメッセージをお願いします。

表原市長:

挑戦をするに際しては、成功よりも失敗の方が圧倒的に多いです。10回挑戦し、2回成功すれば御の字だとも思っています。先ほどお伝えしたように、青年会議所の時に公開討論会を主導しましたが、結果として失敗に終わることもありました。強い思いがあって行動したものの、変化を望んでいない圧倒的多数が目の前に立ちはだかります。その現実にさらされる場面は皆さんにも少なからず訪れるか、すでに一度は経験していることでしょう。

また、都市部であれ田舎であれ、どこであっても「声の大きい」人物や出る杭を打つ組織は必ずあります。あるいは、何か新しいことを地域で始めようとしているときに、そうした若いチカラを悪用しようとする人達も残念ながら存在します。

しかし一方で、苦しみ藻掻くあなたに手を差し伸べてくれる心ある人や、もしくは同じ志を持って、苦境を耐え忍んで共に進もうとしてくれる仲間が必ず現れます。今は様々なツールが生まれたことで、多様なコミュニティでオンライン、オフライン問わず繋がる機会が増えています。是非とも、そうした仲間を少数でいいので見つけてほしいと思っています。

また私は、そのような田舎のヒエラルキーや閉鎖的な部分は全否定するものでもないと思っています。時にはその口のうるさい人が、一番面倒くさいと思われる仕事や、突破口を開いてくれることもあるのです。昨日の敵は今日の味方であったりすることも。そうしたところを上手に取り入れられるよう、そして自分の意見が周囲の共感を得られるよう、失敗も含めて叩かれることもなるべく早く経験としておくべきだと思います。

情報のインプットにとらわれ、周囲に歩調を合わせすぎるとチャンスは逃げていきます。まずは自分がファーストペンギンになり、小さな良い失敗を肥やしとして重ね、やがて大きな花を咲かせてほしいと願っています。

(インタビュー:2022-02-02)

プロフィール

■生年月日 昭和50年1月21日
■略歴
平成10年3月  関西外国語大学外国語学部 英米語学科 卒業
平成10年4月  大和実業(株) 入社
平成20年3月  大和実業(株) 退社
平成20年4月   (有)茶夢代表取締役社長就任
平成27年11月 阿南市議会議員
令和元年12月 阿南市長就任

※プロフィールはインタビュー時のものです。
表原市長とのインタビューの様子
2022年2月2日 zoomにて
(上:表原市長 下:ドットジェイピースタッフ)

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