ジャパンプロデューサーインタビュー

Vol.212 [首長] 太田 昇 岡山県真庭市長 「付加価値が希望と勇気を生むまち真庭市」

〝付加価値が希望と勇気を生むまち
真庭市〟

真庭市長 太田昇
JAPAN PRODUCER INTERVIEW vol.212

市の北部には岡山県有数の観光地である蒜山高原があり、
農林業が盛んでバイオマスに関連した産業も展開しており、
豊かな自然と地域資源を活かした人と環境にやさしい
「杜市(とし)」である真庭市の太田昇市長にお話を伺いました!!

< 『中央ではなく地方から日本を変えたい』という想い >

ー太田市長は京都府副知事を務められた経験もございますが、政治や行政に興味をもったきっかけを教えてください。

太田市長:

私の原点は子どもの頃に農山村部で育つ中で高度経済成長を経験したことです。このような経験が私の根底にあり、農村部の過疎と都市部の過密という問題を農山村部から解決することはできないかという考えにつながっています。

私は岡山県の真庭郡久世町で生まれ育ちました。農家に生まれた私は、高度経済成長で農山村が豊かになっていく半面、農業だけで生活することが苦しくなっていくのも目の当たりにしていました。親からは「農業なんてする必要ない、勉強をして良い大学に行けばいい」と言われ、私が選んだのは京都の大学でした。

しかし、私が高校生や大学生の時代には大学紛争があり、私もその時代を生きる中で必然的に政治に関心を向けるようになっていきました。そして社会に出るという時に選んだのが、京都府庁に入ることでした。京都や京都にある日本の文化が好きだったということもありますが、「地方から日本を変える道を選びたい」という想いもあり京都府庁に決めました。

ー真庭市長になろうと思われた理由を教えてください。

太田市長:

京都府庁で私は地方課という地方の総合窓口のような課を経験しました。そこで私は課長のようなポジションも務めたのですが、ここでも農山村部に深く携わる経験をしました。京都府の市町村長とも仲良くなり農山村の再生も任せられたりもしました。京都府では最終的には副知事を任せられましたが、真庭市長をしないかという声を同級生や市議会議員の方々から頂き、自分の生まれ故郷で首長をするのも人生の選択肢かと思い真庭に戻ることにしました。

ー真庭市長になる上で真庭市への課題感もありましたか?

太田市長:

やはり日本全体で過疎と過密がひどすぎるという問題です。成熟社会では人口は減少していくものです。真庭市のような農山村部でも人口を呼び戻したいけど減っていく。その中で、人口が減っても活力のある、住みたいと思う街にするにはどうすればいいかということを私は考えていました。そこで、意識していたのが幸せとは人によって違うということです。ですから、行政が人の幸せに立ち入るべきではないのですが、条件整備をすることはできます。市民の人が「自分が幸せだ」と思うことを選択できるように環境を整備しなければなりません。

< 地域の付加価値が生み出す精神的なゆたかさ >

ー太田市長の考える理想の真庭市について教えてください。

太田市長:

地域をゆたかにするには精神的な面の豊かさと物質的な面の豊かさがあります。真庭市の所得は低いのですが、お金はあまり必要ではありません。百貨店があるわけではないので贅沢品にお金を使うこともありません。また、野菜などは自分で作って自給自足をしている人も多いです。貨幣経済の社会ですが、真庭市はお金がないと暮らせない都市部とは違います。そのような真庭市で本当に市民が元気でいるために必要なのは、人間が人間らしく自分の選択をしていきることが出来る社会であることだと思っています。

ーこのような考え方に至ったきっかけなどはありますか?

太田市長:

倉敷に大原美術館というものがあります。私の育った時代では、家に掛け軸はあるけれども西洋の立派な絵を見る機会はありませんでした。私が小学生の時に大原美術館に学校の授業で行く機会があり、そこで初めて近代絵画を見て感動しました。家庭環境にかかわらず機会を平等に与えるというのは行政の役割だという思いを持つようになったのもこの経験からですね。農山村にいるから経験できないことがある、選択できないことがあるというのをなくさなければならないですね。

ー農山村部で育った中で抱かれた課題感から理想の街を考えられたのですね。
理想の街の実現に向けて取り組まれていることはありますか?

太田市長:

精神的な面の豊かさを特に実現させようとパートナーシップの宣誓制度なども始めました。LGBTの点でも自由や選択肢が多く、自分の価値観を持って生きていけるということを意識しています。まだまだ真庭市では男女平等の意識が高いとは言えませんが、行政自ら引っ張っていく。強制はしないけれどもLGBTの価値観を入れていく必要があります。

また、手話言語条例も作りました。手話も1つの言語なんだというように手話の言語としての位置づけも変えようという試みです。身体障害も不便さはあるけれども、人間の1つの特徴だというように変えていきたいですね。

他には、ヴァイオリンやフルートの演奏を岡山交響楽団の人に真庭の学校でしてもらったり、真庭市の公共図書館を整備したりと、お金のない子どもにはできないということがないように、子どもの教育や市民の生活が平等になるように意識的にしています。

ー市民の精神的な豊かさという面に力を入れられているのですね。

太田市長:

精神的な豊かさにつながるというところで地域価値を上げるということにも取り組んでいます。真庭にはCLTという繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料を製造する会社があります。CLTの専用工場があるのは日本では真庭だけです。そのCLTを使って隈研吾さんがオリンピックに向けて東京に建築作品を作りました。しかし、オリンピックが延期になったので、それを真庭市の蒜山高原に運び、「GREENable HIRUZEN」という施設にしました。隈研吾さんの建築作品を楽しめるというのも地域価値を高めることになります。あとは、真庭市は阪急百貨店と手を結び「GREENable」というのを商標登録し、真庭のお酒や酢や地ビールを阪急にデザインしてもらい売っています。こうして、地域全体の価値を上げていくことが地域のゆたかさに繋がるとも考えています。

< 学生へのメッセージ >

ー政策立案やまちづくりをする学生に向けてのアドバイスを教えて下さい。

太田市長:

現状分析をすることが重要です。例えば、今の真庭市に何が必要か。住民が何を望んでいるかという思考は必要です。しかし、住民の要望から作るだけではなかなか効果の出ないことが多い。そこで要望に磨きをかけて政策にしていくことをしなければなりません。その磨きをかけて政策にしていくために制度を知っておく必要があります。街について困っていることがあり、その現状を分析した上で、課題を解決するために自分の知っている制度を手法として使っていくのが大切なことだと思います。

(インタビュー:2022-02-15)

プロフィール

■生年月日 昭和26年8月25日
■略歴
昭和50年3月 京都大学法学部卒業
昭和50年4月 京都府 入 庁
平成5年4月  京都府総務部地方課参事
平成8年7月  京都府総務部財政課長
平成12年4月 京都府総務部理事
平成13年4月 京都府知事公室職員長
平成14年6月 京都府知事室長
平成18年6月 京都府総務部長
平成22年5月 京都府副知事 就任
平成25年2月 京都府副知事 辞職
平成25年4月 真庭市長 就任 現在にいたる

※プロフィールはインタビュー時のものです。
太田市長とのインタビューの様子
2022年2月15日 zoomにて
(左:太田市長 右・下:ドットジェイピースタッフ)

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