ジャパンプロデューサーインタビュー

Vol.217 [首長] 田口 知明 秋田県仙北市長 「当たり前を再発見し、誇りに繋がる仙北市へ」

〝当たり前を再発見し、誇りに繋がる仙北市へ〟
仙北市長 田口知明
JAPAN PRODUCER INTERVIEW vol.217

日本で最も深い湖である田沢湖や、武家屋敷で著名な角館を抱える仙北市。
歴史を有する一方、SDGs未来都市や国家戦略特区に指定され先進的取り組みの多い
仙北市のこれからについて、田口市長にお聞きしました!

< 地域への危機感と恩返し >

ーまず最初に、市長を志したきっかけを教えてください。

田口市長:

第一に、地域の存続への危機感があったことが挙げられます。
私はもともと経営者で、政治には直接携わっていませんでした。前仙北市長が3期12年の任期を全うし、60歳で退任する際、次の市長には誰がなるのだろうと思いました。69歳の地元出身の県議が立候補を予定していたと聞き、年齢がどうというわけではありませんが、これから厳しい人口減少や少子高齢化に進んでいく、厳しい環境にある仙北市の舵取り役として、その選択が本当に仙北市にとってベストなのかと疑問を抱いたのが最初です。

第二には、地域への恩返しです。
私は当時、94年間に渡り経営してきた木材会社を廃業した直後でして、自分の人生をこれからどうしていったらいいのだろうかと考えていたところでした。そんな中でも、何とかして仙北市に恩返しをしたいという想いもありました。友人など周囲に相談し、政治経験はないものの思い切って今回、覚悟を決めて出馬することに決意したのです。

< 比較せず、当たり前を見直す >

ー市長の理想とする仙北市はどういったものでしょうか?

田口市長:

今の仙北市の課題は、少子高齢化・人口減少による財政の固定化と逼迫。加えて、コロナによる、仙北市の基幹産業である観光産業への影響です。特にここ2年間で、地域の企業はとても厳しい状況に陥りました。これから何を目指していけば良いのかという時、人口減少の根幹には「地域に対しての希望がない」、つまり幸福度が低いのではないか、そして幸福度が高い町からは人は去らないのではないかと思いました。

満足度という点においては、利便性などの面から首都圏には勝てません。しかし、幸福度というものを基準にすれば、全国一になれるのではと考え、市政方針の軸としました。

ー現在、仙北市の抱える課題は何でしょうか?

田口市長:

私たちはこの街で生まれ育っているものの、実は地域の良さというものを案外わかっていないというのが現状としてあります。400年の歴史を有する角館をはじめ、乳頭温泉や日本一深い湖の田沢湖がありますが、灯台もと暮らしで地元の人はそうした地域に足を運ばないことが多いです。更に、地域の皆さんは、そうした地域に足を運ばないのみでなく、口癖のように「自分の街には何も無い」とも言います。何も無い所に、首都圏から秋田新幹線こまちに乗って、3時間もかけて観光客が多く来るはずがありません。

まず、自分達の故郷の良さを自分達自身が自覚しなければなりません。もっと言えば、両親が子どもたちの前で「この街はこんなに素晴らしいんだ」ということを、例えば、お父さんが仕事の後にビールを飲みながら、「ほんとこの街が好きなんだ」と子どもに話をするような環境をつくっていきたいと思っています。

進学や就職で仙台や東京に出てしまうような人口減少に繋がる意識をつくってしまうことが無いよう、私たちの世代が地域に誇りを持ち、次の世代へ伝えていかなければならない、継承しないといけないと考えています。そうしないと地域の継承は難しいのです。

ー住民が「自分の街に何も無い」と言うことを課題とする市長が多いのですが、原因は何だとお考えでしょうか。?

田口市長:

一番は、それが当たり前になってしまっている事だと思います。
春になるにつれ山菜が多く取れ、食卓に並ぶようになります。あきたこまちの新米や美味しい水も普段から食事に使います。都会の人からすると感覚が異なります。自分達の住む環境が当たり前すぎて気付かないのです。

加えて、秋田県の県民性というものもあると思います。よく言えば慎ましいと言いますか、よく言われるのは、秋田に来た観光客がタクシーに乗った際に最初に、人口減少率1位だとかネガティブな話をされるということです。観光客はわざわざ秋田に観光に来ているのだから、ネガティブじゃなくポジティブな話を聞きたいと思っている、とよく聞きます。

良い点を発信していかないといけません。子どもたちが親の話を聞いて、この故郷を守り、家庭を築いて地域を守っていきたいと思える環境にしていく事が肝要なのです。

「田舎だから」というのは都会と比較しての話で、満足度で見るとどうしても比較対象が生まれてしまいます。あえて幸福度というものを指標として用いることで変えられると考えています。

< SDGs未来都市・国家戦略特区の抱える課題 >

ー仙北市はSDGs未来都市や国家戦略特区に指定され、先進的な取り組みをされています。その効果と、これからの展望について教えてください。

田口市長:

補助等様々な制度を設けましたが、それらの活用は上手くいっていません。前市長が行なった先進的な取り組みで認定をとってきてはいますが、実際その認定でどれだけ雇用が生まれたか、経済的メリットがあったかという点では、当初見込んだ結果にはなっていないのが事実です。

特に、SDGs未来都市はかなり早い段階から取り組んで認定を貰っていましたが、地域住民からすれば、選定されて仙北市はよくなったのか、というところに疑問があるのは事実です。行なったことに対してじゃあ結果どうだったのか、という点で検証をしていかなければ
次に繋がりません。例えるならボールをなげっぱなしで、打たれたのか、デッドボールなのか分からないまま次の球を投げるようなものです。

仙北市が指定されている制度に関して、何が出来るのか、どういった活用をしていけばいいのか、活用できていないという現状に対して何が問題なのか、地元企業の人達と取り組んで、具体的な検討を重ねて結果が出すことを第一にしていきたいと考えています。賞状を飾っていても仕方がないように、制度を活用し結果を出すことが肝要です。

私はもともと経営者です。政治家と経営者との一番の違いは「結果」だと思っています。結果に拘らないと会社の存続は難しく、何よりもそこが求められます。しかし、これからの行政もそうしたことが求められるようになっていくでしょう。ここは私の責任でしていかないといけないと思っています。

< 目的を明確に、端的に示すことが肝要 >

ー最後に、政策立案コンテストに臨む若者に向けてアドバイスをお願いします。

田口市長:

政策立案で一番重要なことは、目的を明確にすることと、目的に到達するために今何をしなければならないのかの道筋を示すことです。私は、仙北市を一つの船と見立て、その仙北丸の航海図を描いています。目的地は全国No1の幸福度で、そこに向かって今年は何をする、政策としては何をするというとこを明確にしていき、結果どうなったかということを検証し、ブラッシュアップしていくことを繰り返すのです。

まずは目的の明確化です。難しい言葉を使用しても分からないので、可能な限り分かりやすくすることが大事です。とにかく私は船に例え、分かりやすく分かりやすくを徹底しています。

そして目的地も、何だか分からないけれど一生懸命漕げと言われているから漕いでいるのでは進みません。乗組員の人達がその為に漕いでいるんだという、立案した目的を示すことだと思います。

(インタビュー:2022-03-15)

プロフィール

■生年月日 昭和45年10月6日
■略歴
1970年(昭和45年) (旧)秋田県仙北郡田沢湖町生保内生まれ
1983年(昭和58年) 生保内小学校卒業
1986年(昭和61年) 生保内中学校卒業
1989年(平成元年) 角館高校卒業
2009年(平成21年) 田口木材(株)代表取締役社長就任
2012年(平成24年) 東北醤油(株)代表取締役専務就任
2020年(令和2年) 東北醤油(株)代表取締役専務退任及び退職
2020年(令和2年) 有限会社タグチコーポレーション 代表取締役就任

※プロフィールはインタビュー時のものです。
田口市長とのインタビューの様子
2022年3月15日 zoomにて
(左:田口市長 右・下:ドットジェイピースタッフ)

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