ジャパンプロデューサーインタビュー

Vol.216 [首長] 達増 拓也 岩手県知事 「世界に開かれた岩手県」

〝世界に開かれた岩手県〟
岩手県知事 達増拓也
JAPAN PRODUCER INTERVIEW vol.216

平泉をはじめとする3つの世界遺産など、歴史と文化が薫る岩手県。
沿岸部の三陸海岸は多種多彩な地形を有し、
新鮮な魚介類が豊富なことでも有名です。
今回はそんな岩手県の舵取りを担う達増拓也知事にインタビューしました!

< 県知事になると決めたきっかけ >

ー県知事になることを志したきっかけを教えてください。

達増知事:

私が岩手県知事になることを志した理由は2つあります。
一つめは、自分が外務省で働いていたころ、一緒に仕事をする国会議員に関して良い国会議員さんもいましたが、諸外国と比べるとこのままだと日本の政治は遅れをとってしまうと思いました。特に外交や防衛について、冷戦が終結したにも関わらず冷戦時代と同じように「アメリカと一緒にいればいい」という考え方の議員が多く、ここから転換して新しい国際秩序を作っていかなければいけないと考えました。

二つめは、地方を良くしていくということが必要だと考えたからです。
初めはふるさとに貢献したいという気持ちから国会議員を志望し、以来10年ほど国会議員を務めましたが、その間に日本経済の低迷と東京一極集中が進んで、地方経済がどんどん悪くなっていきました。
本当は地方分権を進めて、地方が主役の日本経済にしていかなければいけないのにその逆の方向にどんどん向かっている。日本が良くなるためには地方を良くしていくということが一番重要だと考えたのです.

< 世界に開かれた岩手県を目指して >

ー達増知事の考える30年後の理想の岩手県とは、どのようなものですか?

達増知事:

一言で言うと、「世界に開かれた岩手県」ですね。国際的に様々な分野で活躍できる岩手県が理想です。

例えば、ILC(国際リニアコライダー)の誘致です。粒子加速器の最先端がスイスのジュネーブ郊外にあり、2012年にそこで幻の粒子である「ヒッグス粒子」が発見されました。そのヒッグス粒子の謎を解明するためには、50kmほどの強大な地下トンネルを直線型加速器として世界のどこかにつくらないといけないのですが、岩手県の北上高地には50km以上にもわたる質の良い花崗岩盤があり、世界の研究者の皆さんにも「次に加速器を作るなら岩手県だよね」と言われています。
これが実現すると、つくば研究学園都市を凌ぐ国際的な科学研究拠点が岩手県にできます。

また今年8月には、イギリスにあるハロウスクールという名門私立学校のインターナショナルスクールが岩手に開校します。他にも、半導体メモリを製造するキオクシア株式会社の世界最先端の工場やトヨタの東日本最大の組み立て工場が岩手県にあり、産業面ではすでにアメリカやヨーロッパと人やモノが行き来しています。
さらに、平成30年まで岩手には国際定期便がありませんでしたが、現在は県内唯一の空港であるいわて花巻空港から台北と上海にそれぞれ国際定期便が就航しており、中国・台湾含めて広くアジアからお客さんに来てもらえるような環境もできつつあります。

このように、世界と行き来しながら生活したり仕事したり学びができるような、そんな岩手が理想です。

ー世界に開かれた岩手県を実現するにあたって、一番の課題だと考えていることはありますか?

達増知事:

いま目の前にある課題は、新型コロナウイルス感染症対策として当面の生活や仕事を安定させるということです。
また、東日本大震災からの復興もまだ課題として残っていますが、それらの目前の課題以外にやや中期的な課題として挙げられるのが、人口減少問題です。

ただ、人口減少=地方の衰退かと言われるとそれは違うと考えています。もうここ何年も岩手県の人口は減り続けていますが、一方でメジャーリーグでMVPをとった大谷翔平選手のような人材が岩手に生まれて育つという、昔できなかったことが地方でできるようになっています。

人口減少の背景には「十分にお金を稼ぐことができないので県外に働きに出る」「県内では収入が不十分なため家庭を築くことができない」などという県民の皆さんの考えがあります。
このことから人口減少問題の本質は、今目の前で十分な収入が得られるところに就職できるかということや、結婚して出産・子育てできる家庭を築けるだけの経済的・社会的基盤があるかということだと考えています。
これは全国共通ですが、岩手の一番の課題と言っていいと思います。

ー世界に開かれた岩手県を実現するために行おうと考えている政策は、何かありますか?

達増知事:

少子化が日本全体で進んだことから若い世代の数が減っているので、日本全体で人手不足です。コロナの影響で人が余っている観光業などを除いて、地方に居ても働き口には困らないんですね。

いま大事なのは、働き口が地方にも有り余るほどある、地方で就職しようと思えばできる状況にある、ということが若い世代の皆さんやその親御さんに知られていないということです。未だになんとなく、「地方には良い仕事がない」「雇用や就職は都会に限る」というイメージがあり、そのイメージを払拭して正しく地元の情報を伝えることが大事だと思っています。

しかし、都会より地方の方が初任給が低かったり、その後の昇給も額が少なかったりする
ことも事実です。そのあたりは地元企業も努力しなければいけないところであって、地方の経営者のみなさんには、できるだけ給与は高い方がいいが経済構造上どうしても都会の方が給与が良いので、給与以外の雇用条件、例えば通勤にあまり時間がかからない、結婚出産などでの休暇、復職の条件が良いなど、「総合的な働きやすさ」を追求することを訴えています。

このような経営者の努力や企業の存在を若い皆さんとその親御さんに伝えるため、3年前に「いわてWalker」という冊子を作りました。ドラマ「あまちゃん」の主役、のんさんを表紙にしています。東京Walkerを逆手にとって、いわてWalkerですね。これで、岩手にどんな産業集積があるか、半導体や自動車などの世界最先端工場や働き甲斐のある企業がいっぱいあることを紹介しています。
この冊子の編集は(株)KADOKAWAにお願いしていますが、次の年は岩手を舞台にした映画「影裏」主演の綾野剛さんを表紙にした「いわてダ・ヴィンチ」を作りました。
ダ・ヴィンチには岩手の雇用状況や企業情報、生活情報が掲載されています。去年は岩手県大船渡市生まれで四千頭身の後藤拓実さんに、今年は浅沼晋太郎さんに表紙をお願いしました。浅沼さんは声優で、啄木鳥探偵處(きつつきたんていどころ)というアニメの主人公である石川啄木を同じ岩手出身ということで演じています。このような冊子を作って、高校2年生や3年生に無償配布しています。
このように、まずは地元の情報を知ってもらうことから行っています。

現在、様々な事柄でフェイクニュースが問題となりますが、何が事実かよくわからないまま国際紛争になったり、あるいは内戦になったり、アメリカのように議会襲撃事件が起きたりしています。
地方自治についても、フェイクのイメージというのを払拭しなければなりません。大谷君のように岩手で生まれ育ち、そしてメジャーリーグに羽ばたくことができるような生活環境・教育環境・子育て環境が地方にはあるということは、努力しないと外に発信されませんし、中に住んでいる人たちもなかなか知ることができません。テレビでは東京の赤坂に新しいお店ができたとか、東京のデパートの地下にはこんなスイーツが売っているという内容ばかりです。地元放送局も努力はしているのですが、どうしてもローカル情報というのは不足気味です。
そのようなローカル情報を共有して地元を良くしていくには、自治体が努力して発信しないとできないですね。その辺りが理想の岩手県を実現するための肝だと考えています。

< 情報を扱う上で大切なこと >

ーフェイクニュースのお話がありましたが、メディアリテラシーの教育に関してお考えはありますか?

達増知事:

そうですね、「この人は信頼できる」という人をつくることが大事だと思います。大学の先輩であったり先生であったり、その人たちの意見を参考にしてまた相談できればする、と。そのような相手が複数いれば尚良く、直接の縁やゆかりがなくても「この人の言っていることは大体信用できるな」と思える人ができたら、それをベースに自分の考えを組み立てていけば良いと思います。やはり1人だけで考えたり決めるのではなく、色々な人の意見を参考にすることが肝要ですね。最終的には自分で物事を決めますが、その前提として世の中を広く使って、いろいろな人の意見や考え、情報を活用できるような自分なりの知的ネットワークをつくっていくことが大事だと思います。

< 学生へのメッセージ >

ー政策立案コンテストに参加する学生に対してメッセージをお願いします!

達増知事:

先ほども述べたように、地方自治についてはフェイクとファクトを見分けることが大事です。情報通信技術が発達したことで、分からないことはスマホですぐに調べられますし、SNSでもいろいろな情報が得られるようになっていますが、そこにはかなり意図的なウソや、意図はしていないが偏った意見が述べられていることもあり注意が必要です。
やはり「自分で調べる」「実際に行ってみる」「自分で見る、聞く」といった、「自分で」情報を収集して、処理して、フェイクに踊らされずファクトを押さえて行動していく情報処理のパターンを自分の中に構築するということが大事です。特に大学に居るとそのような教育を受けたり、情報の精査が上手な先輩や先生に学んだりする機会もあるので、そういうことに気をつけてほしいと思います。そうすると自然に、地方の魅力、地方の可能性、地方の力に気付けると思いますので、それでどんどん地方に関心を持っていただければと思います。

インタビュー:2022-03-24)

プロフィール

■生年月日 1964年6月10日
■略歴
・昭和58年3月 岩手県立盛岡第一高等学校卒業
・昭和63年3月 東京大学法学部卒業
・昭和63年4月 外務省入省
・平成 3年5月 米国ジョンズ・ホプキンス大学国際研究高等大学院修了
・平成 8年10月 衆議院議員(連続4期当選)
・平成19年4月 岩手県知事当選(現在4期目)

※プロフィールはインタビュー時のものです。
達増知事とのインタビューの様子
2022年3月24日 zoomにて
(左:達増市長 右・下:ドットジェイピースタッフ)

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