ジャパンプロデューサーインタビュー

Vol.087 [首長] 秋山 浩保 柏市長 「量をこなせば違うものが見えてくる。だからどんなに辛くても2年3年は徹底的にやりこんでみよう。」

市長

柏市長 秋山 浩保
所属 柏市長
選挙区 柏市

 

市長になろうと思われたきっかけを教えて下さい


私も最初は皆さんと同じ普通の企業に勤める民間人で、政治や行政との接点というのは新聞やテレビといったマスコミ媒体や、PTAをしていた時などだけでした。ただ、その時に民間視点から、「なんでこんなに、形式にこだわっていて、進みが遅いのだろう?」という疑問のような、違和感を持っていたのも事実です。結局、ただ文句を言っているだけでは何も変わらない、文句を言うくらいなら自分でやってみようと思い立ち、選挙に出馬することにしました。



市長のやりがいを教えて下さい


もともと政治には興味があり、主体的立場で物事の決まる過程やその議論を主導できることはとても刺激的で、やりがいがあります。



民間企業で働かれていた時と市長をされている今とで、仕事の中で通ずる点と異なる点を教えて下さい


仕組みからいうと、全くと言っていいほど違います。全く違う仕組みの中でも通じる部分はありますが、通じるのは人間的なマネジメントなどといった組織運営の部分だけだと思います。

私はもともと、民間のコンサルティング会社で働いていたのですが、その時の最終ゴールというのは「商品をお客様に買って頂く」というただ一点であり、それが唯一の目的でした。
そのため、そのゴールのための戦略を練っていくというのが仕事の形であり、それは大変シンプルでわかりやすいものでした。

ところが、市長になるとそのゴールが沢山あります。行政の役目は市民の福利厚生の向上であり、その最終ゴールは市民の「幸せ」ということになるのですが、この「幸せ」のカタチは人の数だけあります。となると、答えが一つではないのです。
無限に近い数の答えが存在する中で、どの政策をどんな理由で採用し実行するのか説明をするのが行政の役目です。これは民間の仕事と行政の仕事の大きな違いだと思います。

また、民間は最後の意思決定者がはっきりしていて、決断と責任は表裏一体の関係を保っています。失敗すれば責任を取るという構造がしっかりしているからこそ、民間ではいざ決断を迫られた時にきちんとスピード感を持って決められる体質を持っていたのだと思います。
一方、行政の中では一つの決定を下すための過程が何段階もあります。
もちろん、多くの人に影響を及ぼす行政だからこそ、この過程は必要なのですが、外形的には変化に乏しいように見えてしまいます。実際に変化がとても遅くなってしまうのは事実だと思います。

私自身も市長になる前は「なんでこんなもどかしいことしているの?」と思っていましたが、市長になって、遅くなってしまう理由が良く解りました。



市長が大学時代はどんなことをされていましたか?


僕の学生時代は、バブルの最後の時代で「良い大学行って良い会社に入る」という学歴社会の尾を引いていた最後の世代だったと思います。そんな時代で、「良い大学=偏差値の高い大学」と刷り込まれていたものですから今の自分の偏差値でいける大学の中で、最も格好良く見えそうな大学を選んで入学しました。(笑)
そんな動機で大学に行ったので、「学ぶ」というモチベーションが全くなく大学に入って1~2年はほとんど勉強をしませんでした。ただ小さな学部だったので、授業には一応行っていました。
大学の前半はそんな暮らし方だったのですが、本当に偶然のきっかけで「学ぶ」というモチベーションが急激に上がりました。

そのきっかけをくださったのが秋野豊さんという大学の先生なのですが、この方はとても行動力のある学者さんでした。実は僕の卒業した後に、国連タジキスタン監視団などにもご参加されていたようです。

秋野さんに対する僕の第一印象は「格好良い」でした。本当に見た目は、クマのようなごつい人なのですが、こんな人になりたいと思えるような方でした。そんな人だったので、よく話も聞いたのだと思います。話を聞けば興味が湧いて、興味が湧くと自分で学びたくなる。
もちろん教え方も上手だったと思いますが、秋野さんの表面にとらわれない、本質の論点に言及する授業に、いつも刺激を受けていました。

この先生は本当に「リアル」を教えて下さった先生なのですが、そう思うと、やはり「リアル」を体験することは、様々な面で良い方に働くと思います。



市政を運営する中で若者に対して感じることはなんですか?


やはり、もっと柏市に興味を持って欲しいというのが本音です。
いまの若い人に、年を重ねた時に「これが幸せだ」と思える価値観を持つという感覚は、まだなかなか分からないと思います。例えばそれは、大切な家族が居るとか、好きな場所があるとか、住んでいる場所に愛着があるなど、そういうエモーショナルなものだと思っています。
だからこそ、そういう部分で愛着のもてる街づくりをしていきたいと思います。

もちろん大都市東京に比べれば不便だったり、田舎に比べて道が狭かったりと、いろんな面で優っていたり劣っていたりする部分はあると思いますが、それはそれとして「でもやっぱり、この街って好きだよね」と思ってもらえる、街に誇りを持てる、そんな市政を行っていきたいです。



具体的になにか取り組んでいらっしゃることがあれば教えてください


もちろん自治体のすることなので、制度を作ることも重要なのですが、今の自治体の財政構造は良かれ悪かれ、ほとんど国が決めた基準に基づいて補填されているのが現状です。
だから、よっぽど余裕のある自治体を除けば、独自性を持って、できうることはすごく少ないと思っています。
その中でもし仮に無理をして何かをしようとすれば、その代償を将来に残すことになってしまう。であれば、そういう部分ではなくて、もっと質・クオリティの部分で独自の価値を発揮していけたら良いと考えています。
例えば、市役所での対応一つとっても、待ち時間が短いことや、対応する窓口の方が親切だったとか、それだけのことでも市民の方々の満足度は変わると思っていますし、その部分もとても大事だと思っています。



柏市の特徴やオススメの場所など教えて下さい


ここは古くからある街ではないので、歴史的なものというのはないですが、一般的にはやっぱり「柏レイソル」がとても有名です。たかだか人口40万人程度の街でも、J1のプロサッカークラブが持てるというのは、自分たちだけでなく同じくらいの規模の他の都市にも希望が持てると思います。
また柏駅は、千葉県内でも有数の規模の駅であり茨城方面と東京都心をつなぐ玄関口の役割を持っていますし、付近の商業集積地としての役割を担っています。本当に人が多く集まりますのでナショナルチェーンな飲食店だけでなく、個人経営の街の味とも言えるような飲食店も多いです。
また柏市にはニッカウイスキーの最後のボトリング工場もあり、ほとんどのニッカウイスキーは柏市から出荷されていて、そのウイスキーの、あるブランドが世界一の評価をもらっていたりします。
そして自然を楽しめるところだと、手賀沼という大きな沼があります。そこは、非常に美しい景色が見られる場所として知られています。手賀沼というと我孫子市のイメージがあると思うのですが、柏市側の道は、ちょうど散歩するのにとても良い環境となっています。お時間があればぜひお越し頂ければと思います。



私達へのメッセージをいただけますか?


おそらく僕達が学生だった時代に比べればとてもむずかしい時代だと思います。
僕らの時代は、求職者より仕事のほうが断然多かった時代。だから、だれもが仕事はいくらでも選べました。いい学校に行って、いい会社に入れば人生が開けるという、今では到底想像できないような価値観が当たり前のようにまかり通っていた時代でした。
また、それを信じて行けば絶対成功するだろうという成功方程式のようなものが提示されていた時代でした。
でもいまは違います。何が自分にとってよいのか、何が自分にとって「幸せ」なのかっていう選択肢が山のようにある時代で、しかも必ず選ばなければならないというプレッシャーに押しつぶされそうになっているとおもいます。
その悩みはとても大変だと思います。その苦労を実際にしていない人間がいうのも烏滸がましいのですが、あえて言うなら、どんなに難しくても、まずはやってみることです。
何が自分にとって良いことだったのかというのは、実際にやってみないと分からないことだと思います。なので、あまり悩まず、何かのご縁で関わる物事には前向きに取り組んでみてください。
仕事などには不条理はつきものです。どんなに辛くても2年3年やり尽くせば、何か見えてくるものがあると思います。
その時に改めて、選択肢に向きあえば、それがぐっと厳選されて見えてくると思います。
まずは騙されたと思って今やっていることに時間を沢山つぎ込んでみてください。



(インタビュー:2012-09-24)


平成4年3月 筑波大学第三学群国際関係学類 卒業
平成4年4月 ベインアンドカンパニー 入社
平成7年 株式会社フォーシーズ 常務取締役
平成9年以降 経営コンサルタントとして、様々な会社の役員を歴任
平成21年11月21日 柏市長就任
※プロフィールはインタビュー時のものです。


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