ジャパンプロデューサーインタビュー

Vol.176 [首長] 佐藤 一夫 東京都国立市 「人にはそれぞれ生き方がある、それを大切にしてほしい」

市長

東京都国立市長 佐藤 一夫
選挙区 東京都国立市

 

今の時代と市長が生きてこられた時代はどのように違っていますか?


僕らの世代は、安全保障条約や公害の問題など、市民が積極的に権利主張できる場があった。国政に面と向かって立ち向かっていこうという気概が生まれやすかったわけです。つまり、国民が問題意識を持ちやすかった環境があって、それを持たざる人も大きなうねりの中に巻き込まれて自分の意見を述べざるをえなかったといえます。一方で今は、ある程度社会が安定しているので、自分であえて波風を立てようと思わないのではないでしょうか。そういう意味で、皆さんは大きな逆境に立たされているといえます。なぜなら、安定した社会の中でもそこに安住せず、しっかりと自分で問題意識を持ち、意見を発信して未来の日本を築いていかなければならないわけですから。それには大きなエネルギーが必要になります。しかし、あきらめずに自分の考えを実現していってほしいですね。



若者への政策などはありますか?


それは先程の話にも関わってくると思いますが、今の国立市では「若者の居場所を創ってください」という声も聞こえてきます。私は「冗談じゃない!」と思いますね。若者ならば力も知恵もあるのだから自分で創っていく気概をみせてほしい。気力体力がある人たちよりも、高齢者や母子など手助けが必要な人たちにこそお金を回してあげたいと思います。社会現象もそれを後押ししています。少子高齢化と生産人口の都市流入が進み、都市が手を差し伸べるべき対象は必然的に高齢者や子供たちとなります。すると増え続ける福祉需要を満たすために、そこに市の財政の多くが割かれることになります。行政にとっては課題が明確なので、やりやすいともいえるのですが、それに甘んじて適当な行政を行ってはいけません。とにかくそこを若い人たちには分かってほしいですね。その上で、市に対する意見を述べてもらえればと思います。



「若者が活躍する場」はどのように創っていくべきだと思いますか?


馬とにんじんの話をご存じでしょうか?若者の活躍する場を用意するのはそれに似ていると思います。この場合だと若者が馬で、活躍する場がにんじんですね。鼻先に吊されたものに向かって一心不乱に進んでいくということは、ある意味他人に敷かれたレールの上を走ることと似ています。私はそうではなく、一歩前の段階から若者に思考を巡らしてほしいと思います。「自分がどうしたいのか」あるいは「自分だったらどうするのか」ということをしっかりと考えて、自分で活躍の場を生み出してこそ若者であると私は思います。
余談になりますが、国立市の採用の倍率はかなり高いんです。彼らは試験を通ってきているわけだから頭もよいし、まじめで勤勉であることは間違いない。しかし、そんな彼らのさらに高い倍率を勝ち抜いた人でさえ働いているうちに鬱々とした気分に支配されてしまうことがあります。これはなぜかというと、決められたレールの上を走ることに慣れてしまっているからだと私は思います。課題はあてがわれるものであり、答えがあるものだった。故に、自分の考えというものがそこには介在しなかったわけです。しかし、市役所職員になれば多様な方々からの様々な要望を聞き、それに応じて政策を考え、予算という枠の中からいかに市民に利益を還元するかを自分で考えなければならない。そこにはレールはありません。社会にはそのような困難があふれています。そういう意味でも、若い人には今からその素地をしっかり形成しておいてほしいと思います。



今若者の投票率が下がっています。それについてどう思われますか?


若者が選挙に行かないのは、運営する側の仕掛け方が悪いのだと思います。国立市では若い職員でプロジェクトチームを編成して、盥回しにされないようなシステムを創ったり、寄付金の使い道を決めさせたりなど様々なことをお願いしています。そうすると質の高いものをしっかり完成させてくれるのです。しっかりと彼らを信頼し、こちらの主旨を伝達して、議論に巻き込んだ上で彼らに賛否を問う仕掛けを打つべきだと思います。そうすれば「私はこう思います」という意見と、そのための解決策をしっかり出してくれるのではないでしょうか。投票することは自分の意見を持つということに他なりません。若者側も普段からこのような仕掛けを恐れないことも重要かもしれませんね。



若者の主体性、投票率の向上のために市政において見直さなければならないと考えていることはありますか?


我々が今見直すべきなのは変遷する家庭環境です。社会の営みの中で、人にとって家庭環境は非常に重要です。たとえば教育一つとってみても今は塾や家庭教師など様々な学外の勉強の機会がありますよね。私は、学校で行われるべき教育は学校で完結してほしいと考えています。そこで学ぶこと以外にも肌や体で感じて、自身の糧にできることはそこら中にあふれています。友達と遊んだり、地域の行事に参加したりといったことですね。それらを経験していくうちに、いつか親から物をあてがわれるのを拒む時期がきます。それを前向きに捉え、自分のことは自分で責任をとるように促すんです。そうして自立の精神を養うことが、主体的な人格を形成する上で最も重要なことです。その上で勉学に励みたいというのなら自分の意思でそうすればいい。親が塾や家庭教師などの勉学の機会をあてがうのは、彼らの自立するための素養を形成するために必要な過程を阻害してしまうと、あくまで個人的にですが考えています。
何が言いたいかというと、家庭が子供の人格を形成する上で重要なものであると各個人が理解し、子供に教育を施すことが何よりも重要だということですね。どんな教育方針をとるかには各々思うところがあると思いますし、またそうあるべきですが、まずは子供の成長を第一に考えてあげなければなりません。市としてもこの理念を追求するために、福祉教育を専攻した人に教育委員になっていただきました。核家族の役割を体系的に学んだ人たちが教育にメスを入れることによって、新たな風が吹き込んでくれることを期待しています。



市に若者はどう関わっていくべきでしょうか?


大前提として、高齢者や若者という垣根を越えて、誰しもが自分の生き方を持っていて、持たなければならないと思います。なので、「若者は」というように世代を限定せず、多くの人に向けたメッセージとして、「自分の生き方を確立してほしい」と言いたいですね。それは千差万別で、「人に迷惑を掛けない」「悪意のある嘘はつかない」など何でも良いんです。しっかりとそれを貫いてください。そしてその生き方の形成過程で最も重要な「家庭」という場所をないがしろにせず、しっかりと家族に目を向けてこれからも生活していってほしいですね。





生年月日: 昭和22年(1947)7月21日
出身地/住所:国立市谷保
家族構成: 長男家族と同居の8人家族
趣味: ハイキング登山
特技: 傾聴
最終学歴: 昭和41年3月 私立実践商業高等学校卒業
※プロフィールはインタビュー時のものです。

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